日本でも買えます。ヘンプの断熱材!!

朝日ワールドプレスから引用。
http://webronza.asahi.com/global/2013122600005.html

持続可能なヘンプ断熱材にドイツ環境賞
2013年12月27日
ヨーロッパ地球環境

 古い我が家の省エネ対策のため、断熱効果を高める工事をすることになった。だが、作業者の労働安全や自分自身の化学物質過敏症、それに将来廃棄物となった場合の高い処理代などを考えると、大手のホームセンターなどで販売されているグラスウールなどの人造繊維は、とても使う気にはなれなかった。筆者は90年代、当時ドイツで草分け的だった環境学修士課程で、「人間も環境の一部だから」と設置された必修科目の「労働安全」を学んだ。以来、労働環境や健康被害に関して特にこだわるようになった。


ヘンプ断熱材の製造=(C)Foto Hock
 幸いにも、住環境の専門家から、「住居医学的見地および建造物の生物学的影響上問題なし」と認定を受けたヘンプ(産業用大麻)(※注)の断熱材があることがわかった。その上、自社の断熱材を使った家が解体された場合、無償で引き取りリサイクルしてくれるとは、願ってもないことだ。早速、環境に優しい製品を扱うホームセンターで、ドイツの合資会社(有)Hock&Co(以下Hock社)の断熱材をとり寄せてもらった。

 その数カ月後、Hock社の女性社長カーメン・ホック-ハイルさん(58)が、欧州最大の賞金総額を誇る「ドイツ環境賞」を受賞したことを知った。将来世代を見据えた持続可能な企業活動を徹底し、環境と経済の両立を実現してきた同社の企業精神が、ようやく国レベルで評価されたといえる。

 ホックさんは、木の香りに満ちた大工一家の中で育った。初めてヘンプの繊維を触った時、「同僚たちをかゆみや引っ掻き傷で悩ませている断熱材の代わりに使えないだろうか」と考えた。その後、1996年にドイツでヘンプ栽培が再び認可されると、直ちに研究開発を開始した。会社を立ち上げ拡販に努めるが、中々軌道には載らなかった。「金髪の女がヘンプを売りにきた」と揶揄されたこともあったという。それでもここまでヘンプ普及を進めてこられたのは、「人の健康にも環境にも害のない自然素材で、国の環境政策上も多くの長所をもつヘンプは、未来のために重要な製品だ」という固い信念があったからだ。

ヘンプは記録に残っているだけでも3千年以上前から、衣類、紙、食料や燃料などの素材として使われてきた万能植物である。農薬なしでも約100日で3~4mに成長、土壌改良効果も持つなど、ヘンプの優れた特性は「オーガニック」栽培を可能にする。


Hock社社長、カーメン・ホック-ハイルさん=(C)Foto Hock
 ここで、戦後の欧州ヘンプ事情を追ってみよう。1989年、欧州委員会が加盟国に薬効作用成分が0.2%未満のヘンプ栽培合法化を求める政令を出した後、1993年に英国が戦後初めて大規模栽培を開始した。続いてドイツも、ヘンプ栽培を促進し製品を市場に導入するため、認可された年に大掛かりな研究プロジェクトを実施した。

 こうした中で、環境面、経済面および技術面から、5年以内に市場参入が可能とされていたヘンプ製品の一つが、建物の断熱材だった。Hock社は、1998年に抜群の防カビ効果を発揮するヘンプ断熱材を製品化し、翌年市場に参入した。

 1992年リオデジャネイロ開催の「環境と開発に関する国連会議(地球サミット)」から、Hock社のビジネスに更なる追い風が吹いた。連邦政府は「持続可能性」を国の全政策の目標とし、廃棄物政策では「使い捨て」から「ゴミを作らない・使わない」社会へと、大きな転換がはかられた。

 さらに2003年には、環境政党「緑の党」の消費者担当大臣が、再生可能な自然原料を用いた断熱材を利用するよう消費者に呼びかけ、Hock社の売り上げは大きく伸びた。やがて、全工程生産を自社で行えるようになり、省エネ、環境保全、健康への悪影響がない建築材料として、国内のみならず英国や欧州などでも何度も表彰された。

 ホックさんは、現在の経済は、未来のために持続可能な方向に舵を切る必要があると考えている。そのため、起業時から一貫して、「資源や一次エネルギーは極力最小限しか使わない」、「製品使用時に健康被害をもたらしてはならない」、「使用後に発生する混合・特殊廃棄物は極力抑制し、廃棄処理時に新たなエネルギー利用や多額のコストをもたらしてはならない」という原則を守ってきた。例えば同社では、ヘンプ断熱材と同時に「ドイツ環境賞」を受賞した、原発を使わない「シェーナウ電力会社」の電力を使っている。

 現在ドイツでは、福島原発事故をきっかけに、脱原発が柱のエネルギーシフトが国策として進んでいる。中でも、省エネやエネルギー効率向上は重要な政策だ。ドイツ連邦経済・エネルギー省は「Made in Germany」のエネルギー効率化製品の輸出を推進しており、Hock社もその一部を担っている。夏は涼しく冬は暖かい持続可能なヘンプ断熱材の需要は、省エネやエネルギー効率向上のため、今後益々高まっていくに違いない。


ダッシュボードとドアの内装にヘンプを使ったBMWの電気自動車=(C)BMW GROUP
 産業用ヘンプの利用は断熱材だけではなく、多岐にわたっている。自動車メーカーは90年代からヘンプ利用を検討しており、メルセデス・ベンツやBMWなどは数年前から車の内装材にヘンプを使用してきた。医療用大麻についても検討されている。

 日本に目を向けると、大麻草の種子油を燃料にしたヘンプカーを走らせる企画が、過去に何度も実施された。今年になって、鳥取県で60年ぶりに大麻の栽培が復活し、北海道議会では産業用大麻生産を前向きに検討するための質疑応答があった。GHQの占領政策である「大麻取締法」により、衰退の一途をたどってきた伝統産業の復活の兆しが、少しずつ見えてきたようだ。

 古代人が最大限に活用していた万能植物大麻を、現代人はどこまで復活させられるだろうか。大麻利用の将来の鍵を握っているのは、地球環境を考え持続可能な製品を選択する消費者の行動なのである。



(※注)大麻草には、麻、ヘンプ、大麻(たいま)、大麻(おおあさ)、マリファナ、カンナビス等の様々な呼び方がある。本稿では、説に拠り、海外での産業用大麻を「ヘンプ」という呼び名に統一した。同氏は、大麻(おおあさ)とは、天照大神の印、自然崇拝、民族、風習、生活が一体となった日本の伝統材料とし、ヘンプとの違いを再定義している。


川崎陽子(かわさき・ようこ)
環境ジャーナリスト。横浜国立大学卒。半導体関連研究職及び液晶基板関係の技術職を経て、ドイツ・アーヘン工科大学にて応用工学修士(環境学と労働安全)取得。ドイツ・ ベルギー国境地域在住。共著に「福島原発事故の放射能汚染-問題分析と政策提言」(世界思想社)。

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